ある街の落とし物センターで。【夢】

以前に見た夢で訪れた街・場所を、また訪れることってありますか?

実際に訪れたところではないのだから、自分で作り上げた場所なのだろう。おそらく、テレビか映画か、読んだ本から想像して。昨夜の夢で訪れたその街は、大きな丘の斜面にあり海に面していた。以前にも歩いたことがある。別の夢で。

落とし物センターに立っていた。私がなくしたものではない。セミナーで隣りに座っていた若い男の子の持ち物を探していた。日本人だ。「高」がつく名字だった。高杉くん、だったかな。

彼は前日出席したセミナーに、カバンごと置き忘れて会場を立ち去ってしまったという。今日は受付けでもらったペンとメモ用紙だけをもっていた。自分の持ち物をすべて置き忘れて失くしてしまった割には、普通の顔をしていた。困ったのレベルで言うと、お気に入りの靴下の片方がどうしても見つからず、チグハグな色の靴下を履いて一日を過ごしている、くらいの顔だ。

もうひとり一緒に出席していたリカさんは、彼のことをよく知っていた。「彼の置き忘れは今に始まったことじゃないのよ。出かけるたびにどこかにモノを忘れて帰ってしまうらしいの。まったくねぇ。首から紐でくくりつけときゃいいのにねっ。」と言って笑った。「じゃ、今夜、夕食のときにね。場所はほら、あの恵比寿のお店!」と、さっと手を降って行ってしまった。エビスのお店、どこだろう。

私は何故か、何故か私が、高杉くんが失くしたというカバンをさがすことになった。

落とし物センターは、長い坂を降りていったところにあった。なんでも、この街では、忘れ物や落とし物はすべて、この落とし物センターに収集されるらしい。それは海に面した店が連なる爽やかな通りから一本入ったところにあった。裏通りは丘の方に面しているために薄暗く、天井に大きなファンがふたつもついている受付だった。

ものすごく背の高い受付の女性が奥から出てきた。

独特の風貌だ。何人なのか。長い髪は、生え際から毛先までヘアクリームか何かぺっとりとしたもので固められている。スキントーンはアジア人だけれど、アジア人には見ない長さのまつ毛だ。手足が異様に長く、歩くときにゆらゆらと揺れる様子に「かとんぼ」を思い浮かべてしまった。

「ヘロー」も無ければ、「何をお探しですか」とも聞かない。ただ、まつ毛をゆっくりと動かしながら私をみている。

「あぁー。I’m looking for a …. Bag. Men’s bag.」と言ったところで、高杉くんのカバンがどんな風なのか知らないことに気づいた。大体、男性用のカバンってどんなんなんだ。

受付の彼女はそれ以上の説明を待つこともなく、「No Bag」とだけ言った。集められた落とし物を確認しに行くでもなし、記録用紙をめくるでもなし。

「No Bag?」と繰り返してみる。
「No. No Bag.」と彼女。

「Ah… Okay then.  Do you know EBISU? エビス。How can I get there?」と。リカさんと待ち合わせをしているエビスへの行き方を聞いてみた。

「No. No EBISU.」
「No?? E-Bi-Su?  You don’t know where EBISU is?」
No E-Bi-Su.

落とし物センターの入口を出る。スマホはない。公衆電話もない。そもそも、リカさんの電話番号も知らない。

白いバンが停まっているのが見えた。公共の交通手段といえばあの8人乗りの白いバンだ。
海に近くなればなるほど、つまり坂を降りれば降りるほど物騒だから近寄るな、と言われていた。とにかく、白いバンに乗ってエビスに行こう。

前から2つ目の席に座り、運転手に「E-Bi-Su Please」と言う。
振り向いた運転手の頭には、白い布がくるくると巻かれていた。シークのひとのターバンではない。カタツムリのようにくるくると。

そういう街のエピソードだった。
ちゃんとエビスに行けたのか。この先のことは覚えていない。