ごんたの旅立ち。

大きな花の満月の夜、ごんたは旅立った。

ごんたらしいな。

ごんたは柴犬なので、柴犬特有のデリケートさや気品をもっていた。

家の中や、オムツをされてオシッコをするのが嫌で、足がふらふらして立てなくなっても外に出たいといって夜中に何度も母を起こした。母が二階にいるときには、モモが母を呼びに行って起こしたらしい。昨日の夕方、父に抱かれて外の階段下までおろしてもらったときには、それまで下げたままだったしっぽを大きくブルンブルンと振ったんだって。それはきっと、父へのありがとう。

こどもの日に、妹二人の家族が集って皆で食事をしたときには、すすすっと円卓の下に忍び込んですやすやと眠っていたそうな。皆に囲まれて。きっとそれは、みんなへのありがとうの挨拶だったんだと思う。

ごんたは昔からひとへの挨拶は鼻先をちょんと撫でられるだけ、家族にだって抱かれるのが大嫌いだった犬。だけど、認知症が出始めた頃からは、母にすり寄ってきて胸と胸を合わせるようにして抱っこしてもらうと安心して泣き止んだんだって。

生きものがみんなそうなのか知らないけれど、今まで我が家で飼ってきたわんこたちは、死ぬ数日前になるととてもきれいになった。それまでの全てを落としてしまうように。ごんたも、見えない目は目やにでくっついていたし、歯もぬけきれないのがごそごそし、毛並みも毛羽立って白っぽくなっていた。それが、4日ほど前に両親とスカイプで話したとき、「すごくすっきりきれいやで」と言っていた。口臭がなくなり、毛が不思議ととてもツヤツヤとして。閉じたままだったまぶたがあいて、ガラスのような目で見上げてくるんよ、と母が言っていた。

昨夜、母が最後にトイレに連れ出してあげたとき、もう動かなくなった4本足でしっかりと立ち、ぶつかりながらも飛ぶように公園の方まで駆け足をしたんだって。連れ戻しにいってあげるとしっぽを大きく振ったそうです。母が抱き上げて玄関下の階段をふたつあがったところで、ごんたは二つ鳴き、そのまま永遠に目を閉じたそうです。

最後に外で走りたかったんよね。ってみんなで言った。その姿がきっと、毎晩寝ずにそばにいてくれた母へのありがとうだったんだろうな。

ごん兄ちゃんが大好きだった甘えたのモモは、一晩ずっとごんたのそばから離れなかったよと、妹が写真を送ってくれた。

もう一度、頭をくしゃくしゃとなでてあげたかったな。先週、一緒にタンゴを踊りに夢の中に会いに来てくれたのが、私へのあいさつだったんだろうなって思う。

27日の朝、きれいな着物の箱に大好きな毛布やおもちゃやスナックを詰め込んで、父の般若心経の写経を胸におさめ、たくさんの花に囲まれてみんなに見送ってもらったようです。虹の向こうで、先代ももちゃんメメちゃんといっしょに走りまわってね。

ごんた、ありがとう!