Kさんの話

昨日は久しぶりに歯の歯垢をとってもらってきた。スッキリー☆ いつもの衛生士さんのMさんがバケーションでいなかったので、代わりにKさんにお願いした。結婚してすぐの頃、相方のお世話になっていたこの歯医者さんに通うことになったんだけど、初めてのハイジーン(歯垢取り)の予約のときの担当がKさんだった。6-7年、歯垢除去をしていなかった私の歯を見たKさんに、開口一番「これは大仕事だな。」って言われたっけ。全部のクリーニングに90分ほどかかったのでした(汗)。終わった後に「it was one serious excavation!」と言われた。 ははっ。発掘作業ね。。。で、虫歯も4-5本「発掘」されたんだった。

わたしが勝手に「カルメン」と呼んでいる西洋シャクナゲ。

それ以来は半年に一度、きれいにしてもらっている。最近はずっとMさんだけど。

Kさんは2年半ほどまえに奥さまをなくされた。私と同い年くらいのひとだったと聞いた。子宮癌が見つかったときは、すでにステージ4で。手遅れだった。

奥さまが亡くなってから初めて顔をあわせたKさんに、私は明るく挨拶した。そしてねぎらいの言葉をかけた。

後に続けることばも見つからず、Hugをしたかったけれどそれほどの知り合いでもないし、とためらってしまった。Kさんからはまだ悲しみがあふれているのを感じた。こういうときに何て言えばいいのだろう。Kさんは少しうなずいて、「どうもありがとう。Definitely… it was not the right thing to happen」と言った。

歯医者さんでは自分は口を開けているので色んな話をしたくても話せない。「アァーーーァアアーー、んーーんーー(軽くうなずく)」程度で、Kさんがツールを交換するときの少しの間に、すばやく質問したり答えたり。なので、Kさんの話をあーあー言いながら聞いていた。

Kさんは歯科衛生士さんでもあり、作家でもある。「また書いていますか?」と聞くと、「やっと、2ヶ月前に書こうという気持ちになれましたよ」って。奥さまの回想だって。それは、ひとに見せることになるかもしれないし、自分だけのものになるかもしれない。どちらになるか今はわからないけれど、「書く」というプロセスを受け入れられるときが来たって。

「書く」ということを思い出させてくれたのが、去年、カナダでも結構大きな文学賞(CBC Literary Awards )の作品選考に携わったことなんだって。8週間で652の出展作品を読み(これは全部の5分の1)、その中から10作品選ぶという審査員になり、様々なひとたちの様々なものがたりを読む中で何かが動いたって言ってた。

3つの場所に届けることに決めた奥さまの遺灰の最後のひとつを、この夏、Haida Guaii に撒きにいくそうです。

先住ハイダ族の人々の島々、という名前の諸島。バンクーバーから飛行機で北に約2時間。平日に2便。そこには奥さまとの特別な思い出があり、Kさんは「ハイダ・グワイの森は聖地だよ」って。砂浜の海岸がどこまでも続き、夏でも容赦のない風が吹いて近寄れないこともあり、古い古い森が今でも変わらず生きている大小150の島々からなる列島。ハイダ・グワイに奥さまと訪れたときに、「森に浸る(forest bathing)という意味の」ネイティブのことばに出会ったよって。それはあの地に住む人々には必要な単語だなって思ったって。「日本語にも森林浴っていうことばがあるよ」って私が言うと、Kさんの目が少し明るくなって笑った。

その後、犬の話をした。(と言っても、私は「あぁーーぁーぁあー。ぁーあー。」って答えていただけなんだけど。)Kさんの犬は12歳半。Gusと同じくらいの年齢で、同じように耳が遠くなってきているそうです。以前はKさんが家に帰るとすぐに玄関に駆け寄ってきたわんちゃんも、今はよく聞こえないからKさんが帰宅して5分ほどしてから「あ、帰ってたの?(ぶんぶんぶんぶんっとしっぽを降る)」って挨拶しにくるよって。Gusも最近そんな感じ!

奥さまが病気になったときに近所の犬友だちが代わる代わるワンちゃんの散歩をしてくれたんだって。で、今は毎晩、7つの家族が7匹のワンちゃんを連れて一緒に散歩するんだって~。そういうなんでもないルーティーンがありがたいよって言ってた。

もうひとつ、わんこ話の中でKさんがぽつりと言った。

There is something so sweet about old dogs.

歳をとった犬にはなんだか特別な愛しさがある、って。うんうん、Something so sweet だね〜って、一緒に笑って頷いた。

半年後、またKさんに歯をきれいにしてもらおう。そのときどんな話が聞けるのか楽しみだ。

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「Kさんの話」への6件のフィードバック

  1. この前しばらくぶりに会った夫の古い友人も2年前に奥さんを癌で亡くされているの。なくなったのが奥様が50歳になるかならないかの時で、思い出がある家に住み続けるのが辛くて、その家を引き払って新しい職場を見つけたベルリンに引っ越したんだとか。今でも家の中のあちこちに写真があって、私はその奥さんに面識はないんだけれど、ジーンと来ちゃった。私の勝手な希望としては夫よりも先に逝きたいのだけれど、男性が一人残されるのも辛そうだなと思った。そうそう、その人の本業は学校の先生なんだけれど、今は小説を書いているの。書くことで自分の気持ちを整理しているのかも。

    動物たちも年齢を重ねるといろいろ出てくるよね。でも、人間と違って悪あがきせずに全てを受け入れているというか、そんなところがなおさら愛しいなと思う。

    良い週末をね!

    1. Sachieさん、こんばんわ♪
      この間ベルリンに会いに行ってきたお友だち、かな? 
      奥さまとの思いでがある家に住み続けるのが辛くて、っていうの、とても良くわかるよ。実はうちの相方もそうなんだー。だから今のところに引っ越したんよ。新しい思い出を作っていこうって。
      Kさんの奥さまの写真も、歯医者さんのその部屋に置いてあったよ。衛生士さんそれぞれが担当の部屋があるから。すごく優しそうなきらきらした目をしたひとだった(写真から)。
      そうだね、書くことで気持ちを整理しているのかも。Kさんも。きっと同じだね。「夫より先に逝きたい」っていうのもよくわかるよー。うちは年齢差が大きいから、順番で行くと私は後に残ってしまう。こういうことは気持ちで「準備」のできることではないから、一緒にいる今を大切にしていこうと思うよ♪

      うん、ほんと、そうだね!動物は悪あがきしたり先のことを思って心配しない。そのときがきたら、ありがとうって言って去っていくよね。耳が遠くなってきたGus、昔とはちがったかわいさがあるよ。
      Sachieさんも、良い週末を〜!

  2. Kさんもきっとpapricaさんが歯石取りに来てくれるの楽しみにしてるのでしょうね。読んでて私もKさんにハグしたくなっちゃった。こんな素敵な関係が持てる歯医者さんと患者さんいいな、もうそれ以上だね。
    お悔やみの言葉は母国語でもデリケートで難しいから…私もすごく考えてしまう。
    写真がどれもとても素敵。カルメンもぴったりなネーミング◎
    ハイダグワイの森のこともっと知りたくなりました。

    1. poteriさん、どうもありがとう♪
      ほんと、お悔やみの言葉は母国語でも難しいね。頭で迷わず、そっとハグすれば良かったな、わたし。
      Kさんはもともととても穏やかに話すひとなんだけど、先日はなんていうのか、。。。冬の光のようだった。次に歯垢をとってもらいに行くときには、春の光のようなKさんになっているといいなー。
      ハイダ・グワイ、私も機会があったら訪れてみたいところです。でもね、あまり多くの人に訪れてほしくないっていう気持ちもあるよ。

  3. 歯のメンテは大切ですよね。

    私は子供時代は虫歯のなかったのに
    今では ボロボロ~~(>_<。)~

    でも近くにお気に入りの楽しい歯医者さんがいらっしゃるので
    頻繁にチェックしてもらっています。
    でも彼は私より少し年上なので
    いつまで面倒見てもらえるか やや不安です。
    結婚以来 ずっと彼の父上にお世話になり
    その後は 今の先生なので~

    老婦人の後姿が写っていますが
    その女性の歩行器は 今母が施設で使っているのと
    よく似ているので つい~目がいきました(笑)
    この歩行器で 外出はしたことがなくて
    施設内だけで使っています。

    1. nonさん、こんばんわ〜!
      ですよね〜。大切だとわかっていながら、伸ばし伸ばしになりがちです。気をつけないと。
      nonさんにはお気に入りの歯医者さんがいらっしゃるのですか? きっと丁寧で優しい先生なのでしょうね〜。
      安心して見てもらえるお医者さんって、本当にありがたい存在です。特に歯医者って、どうしても気持ちがこわばってしまうところですもん。お気に入りの歯医者さんには長く現役でいてもらわないといけませんね!

      そうですね、この写真の中の老夫婦はどちらも歩行器(ウォーカー)を使っていました。ゆっくりゆっくりと楽しげに散歩されていましたよ♪ 
      歩行器に腰を掛けることもできるようになっていて、疲れたらちょっと休憩されていましたー。微笑ましいです。